日本最古の肖像彫刻とされる奈良・唐招提寺の国宝・鑑真和上坐像(ざぞう=8世紀、脱活乾漆〈だっかつかんしつ〉造)が、粘土の上に麻布を貼って作った精密な型に、指で漆を薄く塗って仕上げられていたことがわかった。同寺と財団法人美術院(京都市)が7日発表した。例のない技法で、鑑真の死期を悟った弟子たちが存命中の姿を写し取ったとの伝承に信憑(しんぴょう)性を与える可能性がある。 坐像の模造作品制作を依頼された木下成道・美術院研究部長らが、3次元画像を撮影するなどして調査。粘土の原型に麻布を貼り重ねて目鼻立ちなどを細部まで整えたうえで、木屎漆(こくそうるし=木の粉と漆を混ぜたペースト)を指でごく薄く塗って伸ばしたらしく、指跡とみられる多数のくぼみがあった。 脱活乾漆造は、阿修羅像(国宝、興福寺)など7世紀末~8世紀の仏像に用いられた造形法。粘土の原型に布を貼る段階で細部まで作り込む手法も、指による漆の塗布も類例がないという。鑑真(688~763)は5度の渡航失敗の末、中国・唐から来日。戒律を伝え、唐招提寺を開いた。坐像の作者は不詳だが、寺の伝承では、弟子の忍基(にんき)が講堂の梁(はり)の折れる夢を見て和上の死期を感じ、弟子たちが像を作ったとされる。木下部長は「伝承は真実に近いのではないか。仕上げにヘラを使うプロの工人の技術には見られない、和上の雰囲気を写し取ろうとする弟子たちの真剣さが感じられる」とみる。 模造は、年数日しか公開されない坐像の「お身代わり」として寺が制作を依頼。来年6月の1250年忌法要以降、公開される。(編集委員・小滝ちひろ)
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